大紀元時報
掛谷英紀コラム

NHK受信料制度 日本の競争力を削ぐ既得権益

2020年07月14日 04時24分
NHK受信料制度 日本の競争力を削ぐ既得権益(参考写真)
NHK受信料制度 日本の競争力を削ぐ既得権益(参考写真)

6月26日、NHKだけ映らないテレビを自宅に設置した女性がNHKとの契約義務不存在確認を求めた裁判で、原告勝訴の判決が東京地裁で言い渡された。このテレビを製作したのは筆者である。

NHKだけ映らなくする原理は、LC共振型ノッチフィルタという古くから知られた技術で、最初はNHKだけ映らないアンテナの形で開発した。この装置を開発したきっかけは、NHK の要請で YouTube に上がった2013 年 3 月 8 日の中山成彬議員の国会質問が削除された事件である。

同日の衆議院予算委員会で、いわゆる従軍慰安婦問題について、辻元清美議員と中山成彬議員が正反対の立場から質問をした。いずれも YouTube にアップロードされたが、NHK は後者のみについて削除要請をした。これは、公共放送として守るべき政治的中立性を著しく欠くと同時に、国民の多様な意見を尊重する民主主義を脅かす行為である。これに対して、視聴者が合法的に抗議する選択肢を提供する必要があると考えて開発したのがNHKだけ映らないアンテナである。フィルタ部分は単体でAmazon等にて販売されており、既に3000本以上売れている。

冒頭で述べたNHK敗訴の判決の反響は大きく、既に各種メディアで判決の概要と筆者のコメントが報じられている。報道に対する反応はほとんどが好意的なものだが、もしこの判決が最高裁で確定してNHKだけ映らないテレビが普及すると、社会的弊害もあるのではないかと心配する人もいるだろう。そこで、本稿ではその観点でNHK問題を論じてみたいと思う。

筆者はNHKが果たしてきた歴史的な役割を否定するつもりは全くない。日本のラジオやテレビ放送の普及におけるNHKの功績は絶大である。しかし、ここ十数年の間に、NHKはその上に胡坐をかいて、国民の利益を全く考えない組織に成り下がってしまった。

NHKの受信料は、もともと番組制作だけでなく、放送インフラを整備することも目的として徴収されるものであった。全国あまねく放送を受信できるようにするためには、多数の電波塔を建てる必要がある。衛星放送には、当然衛星の打ち上げが必要である。デジタル放送の開始に当たっても、放送インフラの更新が必要であった。これらの整備がほぼ終わっている現状においては、受信料の大幅値下げが可能なはずである。

鉄道の運賃を考えてみればよい。昔から通っている鉄道は、新しく敷かれた鉄道より運賃が安い。これは初期投資の借金返済が完了しているからである。車輌の更新や高架工事、ホームドアの設置など新たな投資は常に必要だが、それに必要な投資額は鉄道の新設より低い。

同じ理屈で考えれば、NHKの受信料も安くできるはずである。しかし、NHKは余ったお金を職員の厚遇実現に回してきた。NHK職員の平均給与の高さは、既に広く知られているところである。

もちろん、その高額な給与に見合う価値のある仕事をしているならば文句はない。しかし、最近のNHKはその既得権益を守ることだけを目的に動いているとしか思えないことが多い。たとえば、テレビメーカーがNHKだけ映らないテレビを販売できないのは、NHKがテレビ放送に関する大量の特許を取得しているからである。特許データベースJ-PlatPatで検索すると、デジタル放送に関するNHKの特許は出願で1000件以上、権利化されたもので100件以上ある。

NHKや各家電メーカーが所有するテレビに関する特許はARIB必須特許ライセンスやUHDTV必須特許ライセンスとしてアルダージ株式会社によって管理されている。この特許プールがNHKの特許を含む以上、NHKが映らないテレビで特許使用が認められることはありえない。そもそも、NHKが映らないテレビはARIB規格を満たさないのでCASカードが発行されないという問題もある。

このように、日本ではNHKをはじめとするテレビ局の既得権益を守るために独自の規格を作り、それが日本の電子産業の発展を阻害してきた側面がある。コピーワンスやダビング10、ワンセグ放送などもその例である。

日本のスマートフォンが海外勢に敗れた要因はいくつかあるが、そのうちの一つにワンセグ放送受信機能が標準装備されていることがある。ご存じの通り、NHKはワンセグ放送しか受信できなくても、一般の地上波契約と同額の受信料を払わせる。この妥当性は裁判でも争われたが、NHK勝訴で判決が確定している。そのため、受信料を払いたくない若者たちは、ワンセグ機能のない海外メーカーのスマートフォンを選ぶしかなくなった。これでは日本メーカーはまともな勝負ができない。

日本の電子産業に大損害を与えてまでNHKを守った引きかえに、われわれ日本人が得たものは何か。6月29日、筆者はNHK敗訴の判決を取り上げたAbema Primeニュースに出演したが、番組に出演しているタレントや前NHK会長の籾井勝人氏は、NHKの番組の質の高さを盛んにアピールしていた。確かに、昔のNHKの番組には質の高いものが多かったことは筆者も認めるところである。しかし、今もその質を維持しているといえるだろうか。

昔は、「おしん」のように海外に輸出されて広く観られたドラマもあったが、現在NHKが作るものにそうした国際競争力のあるコンテンツは見当たらない。ドキュメンタリにしても、1989年のNHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体』、1993-94年の『驚異の小宇宙 人体II 脳と心』、1999年の『驚異の小宇宙 人体III 遺伝子』に比べ、2017年から始まった『人体 神秘の巨大ネットワーク』は、科学番組としてのクオリティが大幅に低下している。

NHKの集金は、昔はNHKの職員によって行われていた。そのため、番組の質の低下は、職員の集金業務に影響した。ところが、2004年の不祥事で不払いが拡大したため、その対策としてNHKは外部業者に集金を委託するようになった。その傲慢で荒っぽい集金方法が、番組作りに対する謙虚な態度を失わせているように見える。

もちろん、NHK BSでは『静かなる“侵略”~中国新移民に揺れるオーストラリア~』のように、良質なドキュメンタリが今も放送されている。BSの場合、一般家庭ではわざわざパラボラアンテナを立てなければ観られない。そのため、視聴者が対価を払ってでも観たい番組を制作しようという意識が働いていると考えられる。よって、NHKを観る、観ないのオプションができることは、NHKの番組の質的向上にむしろプラスに働く可能性がある。

今やインターネットを介して世界中のあらゆる動画コンテンツが観られる時代である。現状のように、番組の質的低下を放置しながら、強制的に受信料を徴収するスタイルが続けば、これからの世代の人々はテレビそのものに背を向けるだろう。実際、テレビを持たない若者の割合は急激に増えている。これに危機感を抱いたNHKが画策しているのが、インターネットに接続できる全ての人から受信料を取ることである。しかし、この方針は明らかにおかしい。

上述の通り、受信料は放送インフラの整備のために徴収するという側面があった。一方、通信インフラを整備したのは通信事業者であって、NHKではない。であるから、インターネットに接続できることは、本来NHKの受信料を強制徴収する理由にならない。ネット番組視聴に対して料金を徴収するなら、コンテンツ視聴の有無を選択できるようにし、視聴することを選択した人に対象を限定するのが筋である。

今後のNHKのあり方については様々な意見がある。ストレートニュースや災害情報などの必要不可欠な報道については税金を投入して無料放送とし、それ以外は有料チャンネルにするか広告を入れる形で運営するのが現実的な選択ではないかと筆者は考えている。もし、国内居住者全員から受信料を徴収するなら、全役員を契約者の選挙で選ぶことは最低限必要である。お金は強制徴収するのに、番組内容や局の運営について視聴者の声を一切反映しないのでは、やっていることが中国共産党と同じである。

NHKだけ映らないテレビの裁判が、NHK改革を本気で議論し始めることの契機になることを願っている。


執筆者:掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)など。

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